思想

「人工知能が人類を滅ぼす」論に潜む暗黙の前提についての違和感

【字数:2602字 目安:6分】 「ディープラーニング」(深層学習)を中心とした人工知能に関する議論が最近国内でも流行っている。雑誌や週刊誌でも特集が組まれることが多いし、だいたいそこでは松尾豊さんとか小林雅一さんあたりを中心に記事が載っている。…

検索エンジンと人間の関係について考える

【目安時間:10分】 関心の変化 検索エンジンの役割について再考する あえて情報を引き出す手間をかけることの意義 人工知能と検索エンジンの関係という問題 関心の変化 久々にブログを更新する。前回の記事は大学院の院試の直前で、まだそれに向けてルベー…

「機械的なものvs人間的なもの」の胡散臭さについて

人間と機械 ある通念とそれに対する懐疑 最も機械らしい存在としての人間 部品の数 集合で考える (中国の食品工場の生産ラインの一部。出典:中国北京の食品工業:燕京ビール公司・三元食品公司;鳥飼行博研究室) 人間と機械 ある通念とそれに対する懐疑 人…

記憶と記録の違い

人はネットでバカになっているのか 引き出す場所と考える場所 内部記憶の場合 外部記憶の場合 もっと包括的な情報技術について (出典:Computer Memory Chips Free Stock Photo - Public Domain Pictures) コンピューターの普及が記憶の外部化を可能にした…

人とコンテンツの関係について

【1927字 目安:4分】 書店の本というのは、トピックやテーマ、概念、キーワードなど、つまり「何が書かれているか」ではなく、著者、つまり「誰が書いたか」を基準に並べられていることが多い。人文思想の「人格化」という言葉をとある動画で聞いて「確かに…

幽霊論

【字数:950字 目安時間:2分】 (出典:【画像も】怖いくらいに美しい松井冬子の作品の値段などを大発見! | まとめアットウィキ - スマートフォン いずれも東京芸大出身の画家、松井冬子さんによる作品。不気味なものがまさにその不気味さを前面に出し、そ…

設計するということ

トヨタのTNGAとTCP/IPの共通点 生物における階層化 モジュール化について トヨタのTNGAとTCP/IPの共通点 2015年5月2・9日合併号の週刊東洋経済のトヨタ特集を読んでいる。トヨタの自動車設計についての新しい構想「TNGA」(「トヨタ・ニュー・グローバル・ア…

集団が情報を処理するしくみ

【3797字 目安:8分】 ①民主主義(democracy) …政治システム。構成員による「話し合い」で解決できるものが問題の中心で、専門的な問題、解決に高度な知識や技術を必要とする問題*1には、専門家の関与が不可欠。決議を構成員全員が行うタイプ(直接民主制*2…

しるしのつながり

私はよく誤解をする。「〜は〜だからではないか?」「〜と言ったあの人の意図は〜ということなのではないか?」「〜というこの状況は〜ということを意味しているのではないか?」など、それはもう色々なしかたで誤解する。 「精神的な距離は物理的な距離とし…

群選択における群の階層

「群選択」(group selection)という言葉を使う場合、通常は自分個人ではなく、自分の所属する集団にとって望ましい選択とされる。気になるのはこの「自分の所属する集団」というところで、互いに階層の異なる複数の集団にある個人が所属している場合、個人…

陰謀論はどうしてこんなに流行るのか

政権批判の材料として、しばしば「陰謀論」(conspiracy theory)が語られる。 現政権は〜しようとしているのではないか?(主観的な確率20%) →〜しようとしているしたら◯◯や△△にも合点がいく(勝手に確率50%を上回る) →◯◯や△△は現政権が〜しようと…

つめこみ教育とゆとり教育

「つめこみ教育とゆとり教育のどちらがよいか」ということがしばしば議論される。つめこみ教育はとにかく多くの知識を生徒につめこみ、ゆとり教育は知識の量を抑えつつ、生徒自身に考えるゆとりを作ることを強調する。 私はどちらにも反対だ。そもそも「あれ…

権威主義はどうやって生まれるのか

合理主義と権威主義 合理主義について 権威主義について 規範と実証 権威主義の妥当性 群選択の結果としての権威主義 現代における合理主義と権威主義 合理主義と権威主義 合理主義について 「誰が言ったかではなく、何を言ったか。」という言葉をときどき目…

SNSにおける「悪意」の拡散

SNSを見ていると、「悪意」をもった書き込みがすごい勢いで拡散・展開していくのをよく目にする。「いいね!」や「RT(リツイート)」など、SNSは個人の投稿を拡散することがシステムの根幹をなすように設計されている。特にFacebookは「羨み(Envy)」を拡…

世論の物理学は可能か

世論はどうやって決まるか 代議制民主主義が政治的意思決定のプロセスの基礎を担うようになって久しいが、その一方で「世論」(public opinion)がいかに形成され、変動し、政治や文化、経済、社会というサブシステムを介して特定の決断を下すに至るかという…

イライラを活かす

私は基本的に怒らない。それは疲れるということもあるけれども、なにより「怒っても問題は解決しない」と経験的に感じているから。怒るくらいなら何が問題かをきちんと話し合う方が前に進める。しかしだからといって、イライラしないかというとそうでもない…

集団を支配する無意識

「集団がまずあって、個人というものがそこから分化して発生してきたという順序だと私は考えている」というようなことを以前の記事に書いた。しかし、今は「個人」(individual)というものが生まれた後の時代であるから、「個人から集団へ」という順序もあ…

「らしさ」ってなんだろう

「〜らしい」という言葉がよく使われる。「女性らしい」とか「◯◯さんらしい」とか「日本人らしい」など、例はいくらでもある。しかしどれも「それってどういうこと?」と聞かれると、それほどうまく答えられるものではない。 例えば「女性らしさ」というのは…

社会の中に「うなり」はあるか

時系列上で、ある量が増えたり減ったりする「振動」を繰り返すことによって、そこにはあるリズムが生まれる。週に一度のドラマを例にすると、ドラマを見る日は1、見ない日は0である。なんらかの行動をするかしないかで考える場合には、1か0かという形で…

言葉以前の世界にどう触れるか

世界は言葉よりも前に生まれている。たとえこのことを言葉を使わなければ表現できないとしても、世界は言葉に先立つという事実は揺らがない。 「◯◯以前の世界」という言い方に少し興味がわいている。たとえば男女以前の世界はどうだったのかと言われれば、無…

都市の人々は地動説を獲得できるか

(品川区南大井にて撮影) (三鷹市井の頭の三鷹台駅ホームにて撮影) 都市には高層ビルが立ち並び、高い壁に遮られた空は、人々にとって高く感じられる。それは人々の立つ地上の遥か上空に地上と平行に拡がっているように感じられやすいだろう。 しかしもし…

私は他者と出会っているか

前回の記事では、「祭り」において私と他者とが互いの異質性を失い、同質な存在として集合するということを考えた。或いはもう少し前の記事では、「叶わぬ願望」を契機として、偶像化された他者と、現実とは反転した「理想としての私」とがどのような形で関…

祭りをめぐる集合意識と個人の同質性

最近、木村敏さんの『時間と自己』(中公新書)を読んだ。もともと興味があった本ということで読み始めたのだが、近頃の関心である「大衆」や「集団と個人」というところとも関係する内容であることに気付かされた。 大衆については「多数決で正しいことを決…

道具の使用を禁止するというのはナンセンス

ある道具を巡って問題が起きた時に、その道具を使うことを禁止するという対応が取られることがある。最近こんな記事を見つけた。 生徒との私的LINE禁止 教諭5人免職で埼玉県:朝日新聞デジタル 生徒との私的LINE禁止 教諭5人免職で埼玉県:朝日新…

バレンタインデーの1日

今日は日記風に書いてみようと思う。 バレンタイデーということでGoogleのトップページも案の定面白いことをしている。 去年の10月以来、久しぶりに髪を切った。すっかり前髪が伸びてしまっていて、風の強い日は少し鬱陶しさを感じるような状態だったが、そ…

アイドル・偶像・ヒーロー

ある個人の心の隙間に入り込むものについて、以前に記事を書いた。そこでは個人の絶望や断念が、心のうちに隙間を生み出し、他者と連帯していく事態を中心に記した。それに対して今回は、絶望や断念が、特定の他者のもとに帰属し直す事態、つまりアイドル・…

天気みたいなもの

トピック「本屋」について、幾つかの本をもとに「天気」について考えていることを書いてみようと思う。 天気といえば、国境などおかまいなしに広がって刻々と変化していて、ある時ある国の上空にあった雲が、風に流されて他の国の上空に移動したり、あるいは…

表現の自由をめぐる空気と「何が消えたか気付かない問題」について

近頃は色々な出来事について、色々な人が色々な立場から色々なコメントをしているけれども、一つの大きな潮流として「表現の自由を守れ!」というのがある。 イスラム国(ISIS或いはISIL)による日本人の人質事件、フランスのシャルリー・エブド紙の風刺画の…

クァンタン・メイヤスー『亡霊のジレンマ』(岡嶋隆佑)を読んで

現代思想 2015年1月号 特集=現代思想の新展開2015 -思弁的実在論と新しい唯物論-作者: 千葉雅也,中沢新一,大澤真幸,赤坂真理,クァンタン・メイヤスー,フィリップ・デスコラ,篠原雅武,重田園江出版社/メーカー: 青土社発売日: 2014/12/27メディア: ムックこの…

「科学的でないものは誤り」の科学的な誤りについて

科学を大事にしている人の一部がよく使う台詞に、「そんなものは科学的でない。だから誤りだ。」とか「私は科学的でないものは信じない」というようなものがある。今回は特に前者の台詞について書こうと思う。後者についても別の機会に書こうと思っている。 …