人とコンテンツの関係について

【1927字 目安:4分】 

 書店の本というのは、トピックやテーマ、概念、キーワードなど、つまり「何が書かれているか」ではなく、著者、つまり「誰が書いたか」を基準に並べられていることが多い。人文思想の「人格化」という言葉をとある動画で聞いて「確かにそうだなぁ」と感じた。

 本を選ぶときに、「何が書かれているか」(What is written?)は、「誰が書いたか」(Who wrote?)に比べると、パッとはわからない。表紙を見て、タイトルや目次を見て、気になる章のページをパラパラっと繰っていって、それでもまだ「誰が書いているか」(Who)の明晰さには及ばない。

「どれくらい及ばないか」と言われれば、人格化によって皮肉にも「誰が書いているか」ということが、本来それが持つはずの意味よりも過小評価されてしまっているのと同じくらい、とひとまず言っておくことができるだろうか。

キャラが前面に押し出され、「ああこの人が書いてるのか、それなら読んでみようかな」というような気持ちで手にとる人が増えているのかもしれない。

それ自体が悪いわけではないものの、こうした人格化が進むと、どんな問題を考えるときにも、「この人が言ってるから正しい」、とか「この人が言ってるからインチキ」というような、「内容自体」でなく「人」によって内容を評価するという、なんとも知性を感じられない現象が起こるようになる。いや、すでに起きている。

橋下さんが言ったから正しい、とか、竹中平蔵さんが言っているから反対だ、というような言説を色んなところで目にする。

 この問題を考えていて、あることを感じた。それは、書店の本の並べ方、人文思想の人格化の問題というのは、SNSという空間に対して私の抱く違和感とも通底しているのではないか、ということだった。

SNSという空間は、利用者の「アカウント」を軸に展開されている。つまりそこで生まれるコンテンツは、「何が書かれているか」ではなく、「誰が書いているか」によって並べられている。時系列に沿って。

そんな並べ方をしていれば、コンテンツが「まとまり」を持つはずもない。ペットの写真の下に原発非難の書き込みがあり、さらにその下には友達との飲み会の写真が…という並び方が普通という、脈絡を欠いた空間、文脈(context)を失った空間が延々と展開し続ける。

コンテンツは「秩序」、もう少し柔らかい言葉を使うなら「まとまり」を持って初めて、いきいきとした空間を作り出すものだと私は思う。

「まとめる」のは書店員の方や図書館の司書の方に始まり、各個人がそれぞれ「こんなまとめ方をしてみた」ということをやるようになることで進むものだ。そうしてコンテンツが作り上げる空間が複数の人間に共有され、共通認識となって初めて、何か社会的にインパクトのあるもの、「文化」とか「政治」と呼ばれるようなものがリアリティーを持って現れてくるのではないだろうか。

 SNSについて批判的に書いてきたが、それでは検索エンジンはどうだろう。検索ボックスには人の名前を打ち込むことも、概念やキーワードを打ち込むこともできるから、検索エンジンというサービスは、「誰」と「何」のどちらも、「コンテンツの並べ方」の基準として対等に利用できるように作られている。

 しかし以前とは異なり、今はネットの入り口はSNSだ。検索エンジンGoogleFacebookTwitterと競合関係になりうるのは、いずれの企業も人々の「ネットへの入り口」になるサービスを提供しているという点で共通しているからだ。「誰が言ったか」が基準で大量のコンテンツが雑然と並べられた空間が、ネットとイコールのようになっている。

 そんな空間で、コンテンツが本来のいきいきとした空間を構成することは難しい。そしてそういう空間で、言論が育たないのも無理はない。本が売れないのも無理はない。

 アルバイト先の塾で生徒を教えていて、人の話ばかりが出てくる。誰それが何といった、何をしたという話ばかりが出てくる。しかし「人って死んだらどうなるんだろうね」とか「インターネットってどういうもの?」みたいな話はちっとも出てこない。こじつけでも誇張でも極論でもなく、「誰」ばかりが問題になるような社会で生きているから、人間関係で悩むようになるのではないかとすら思う。

 逆説的かもしれないが、もっと「誰」から離れて「何」を追いかけるような空間を作らないと、人がうまく生きていけないままなのではないか。それには「コンテクスト」を共有しなければならない。

 コンテンツ、もう少し硬い言い方をすれば「テクスト」が、「コンテクスト」に支えられて浮かび上がってくるような世界を夢見ている。

 

 

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