噂
誰が落としたか
いつ落としたか
どうして落としたかもわからない小石が水面に触れると
触れた以上はどうしてたって波紋が広がる
波紋が消えてしまう迄に
ただ水面が揺れるだけでない様々な事柄が
まるで自然であるかのように次々と起こり
それは新たな小石や岩にもなる
その小石と岩とが新たな波紋を生み
あるいはすでにあった波紋を広げ
あるいはすでにあった波紋を打ち消して
水面を広がっていく
波紋が広がるうちに
そもそも始めの波紋はどうして生まれたのか
どのようにして水面はさざめきたったのか
それは今の波紋と同じなのか違うのか
それらは波紋と同じように次第に忘れ去られる
私の声は
あの人の声は
私の知らない誰かの声は
どこかで小さな波紋を作っている
(※三浦しをん原作の映画『舟を編む』の中で、辞書編集部がなくなるかもしれないという噂が流れるシーンを見ていてふと思ったこと)