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本人は否定しているけれど・・・

【1916字 目安:5分】

ハフィントンポストでこんな記事を読んだ。

www.huffingtonpost.jp

 

 記事の趣旨は「クオリティー・オブ・ライフ(人生の質)という言葉に含まれる『質』というのは、『本人が知らないことすら知らないこと』でできている。それは脳の一部しか使わない我々にはごく自然なことである。その『質』の部分に素直に目を向けることがよりよい人生を生きる『ライフスキル』の第一歩であり、とても重要なことである。」というようにまとめることができるだろうか。

 これを読んで少し連想的に考えたことを書こうと思う。「考えたこと」というのはこの記事とは少し違う話なのだが。笑

 個別指導塾でふだんアルバイトをしていると、生徒の悩みを聞いたりすることや、他の講師や社員の方と話したりする。そのとき、「ああ、この人は『Xだ』と心の底では思っていそうだなあ」ということがそこはかとなく感じられることがある。

そこで私はそれを指摘する。 「〜さん、たぶんXだと思ってるんじゃない?」

すると相手はそれを否定する。「それは違う、私はYだと思っている。」

 しかしそれでもやはり、私から見るとどうしてもXだと思っていそうに感じられてしまう。しかし本人は、「本音(或いは心の奥底?)では自分はXだと思っている」ということに気が付いていないだけではないか、と思われて仕方がない。そう、「自分が知らないことすら知らない」ではないが、「自分が思っていることすら知らない」という状態。

 少し話がそれるが「洗脳」(brainwash)とはそういうものなのだろう。自分の意識では「Yだ」と思っていて、周囲の人にも「私はYと思っています」「本当のこと」を言っているつもりでも、無意識では「Xだ」と思っており、実質的には嘘をついていることになってしまう。しかも自分で嘘をついていることに気がつかないから、ウソ発見器にも引っかからない。なにしろ「動揺」しないのだから無理もない。 

 これに似たもので「虚記憶」*1(false memory)という概念がある。もともとの定義は「過去に体験したことのない出来事であっても、体験したと誤って思い出されること」である。

 実際には「この子は神童だ」などと言われたことは一度もないのに、小さいころの自分は周囲から神童と呼ばれていたと自分で信じ込んでいたりする場合は虚記憶というふうに捉えることもできる。

虚記憶という現象には、人が何かを思い出すとき、自ら記憶を書き換えてしまい、それでもその記憶の内容は正しく、真実であると思い込んでしまうという性質が関与している。まあ「記憶」などと書いていると「みかんはみかん」というのと同じように、時間が経とうが変化しないもののように錯覚してしまうが、その実体は脳内のニューロンの発火パターンによって成立しているもので、いつも正確に発火する保証なんてないと考える方がむしろ自然な気もする。ちょっと条件が変われば違う発火パターンになってもおかしくはない。

  そして「自分では気づいていなくても実は自分はXだと思っている」ということだって、考えてみれば自然なことなのかもしれない。意識している部分より無意識の部分の方が圧倒的に多いわけで、誰の脳もそういうバランスで成り立っている。誰かに指摘されて初めてそのことに気がつくということだってよくある話だ。しかし指摘されるまでは、「Yだ」と一貫して主張していたりするものだ。そしてそういう生き物が「社会」とか「文明」などと呼ばれるものを作り上げているのだ。

 

自分では気がつかないうちに世論のうちのある特定の方向に進み、

自分では気がつかないうちに流行を広めることに加担していたり、

自分では気がつかないうちに目標や意志とは正反対の結果を招いてしまう。

 

そういうことが、「脳」というハードウェアの特性によって、ある程度不可避的に、導かれるようにして起きてしまう。今も昔も、西でも東でも、繰り返し繰り返し。

さて、そういう生物が営む社会ではどんなことに気をつけなければならないか。 意識の可能性を信頼することか。ある方向に流されてしまうということが原理的に生じ得ないような枠を作ってしまうか。「制度の檻」アーキテクチャのようなものを。ある人は「法」(law)こそがそういう役割を果たしてきたのだと考えるだろう。

さて、それでは私はと言えば、TCP/IPの本の続きを読もうと思う。なぜか。そこにヒントがあるように思えるからだ。

 そのあたりのことは過去のいくつかの記事に書いた通りである。

plousia-philodoxee.hatenablog.com

 

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*1:ちなみにこの訳語は「虚偽の記憶」や「錯誤記憶」「誤った記憶」「偽りの記憶」など、原語(英語)の”false memory”の訳語の一例にすぎず、未だ確定した訳語はない状況らしい。