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来る水素社会について考える

【2037字 目安:5分】

以前から書店で見かけては気になっていたpen+をようやく購入した。

 下水道を流れる水にどんな利用価値があるのか、その可能性について書かれた記事や、実際の作業(下水道の中の工事など)の写真、さらに女性の職員の方々の紹介なども盛り込まれていた。「力仕事」というイメージの強い下水道の仕事であるが、女性でもきちんと作業をこなすことができることなど、「社会における女性の積極的な活用」という文脈で気になるところもあったが、個人的にはやはり「水素社会」という文脈で語られる、発電や燃料電池自動車との関係が最も興味をそそられた。

水素社会については雑誌の「ニュートン」でも特集号が出ていて、そちらもまた読んでみようと思っている。

 

下水処理から生まれるエネルギー

下水処理で生じるメタンガス
 
①火力発電の燃料
③都市ガスの原料
④水素の製造
 
に利用され、特に水素に変えると燃料電池自動車(FCV)へチャージできる。これまでは漠然と「便利になるなあ」くらいに考えていたFCVについて、それが社会の中でどんな風に位置付けられ、どんな風に機能し、そしてどんな風に社会の方向性に影響を与えるのか、ということについて再考を迫られる記事ばかりだった。
 
   単に「電気で走る自動車」というだけでなく、電気を運び、インバータを使って直流(DC)を交流(AC)に変換して家庭でも利用可能にする。さらにこのサイクルの中に、家庭から排出される下水を処理する過程で生まれる、メタンガスを利用した発電が結びつく。
 
 電気を通じて人が移動し、スマホやパソコンを充電し、料理を作り、洗濯をし、その過程で出た排水が下水処理を通じてまた電気になる…。このサイクルの中に、今の素朴な生活感覚ではまだ違和感のある「自動車」が加わる。いわば「使う」と「貯める」を兼ねる電気の「メディア」として。こうしたつながりについて考えていると、「水素社会」というものの奥深さのようなものを感じさせられた。
 

電力の問題はひとつでも、対処のしかたはいくつもあるという話

   発電や蓄電の話となると、エネルギー問題との関係を触れないわけにはいかないように思われるので、その話をしようと思う。電気をどんな風に作り、使うかについて、色んなアプローチというか色んな因果関係の系列があることに気付かされた。話が突然飛ぶようだが、コンピュータの話をしようと思う。それもノイマン型でないコンピュータについて。
日経サイエンス2015年06号

日経サイエンス2015年06号

 

 

   日経サイエンスで読んだ「メムコンピューター」(memcomputer)の記事の場合、記憶(memory)と演算(computing)を同時に達成できるような回路素子のアイデアがまず生まれた。1970年代、カリフォルニア大学バークレー校の電気工学者であるレオン・O・チュア(Leon O Chua)の研究である[1971]。論文タイトルは「MemristorーThe Missing Circuit Element」*1
当時、それはまだアイデアにすぎず、それを実現するための材料がなかった。
 
 その後工学と物質科学の領域で物性の研究が進み、2008年ヒューレットパッカードの技術者であるスタンレー・ウィリアムズ(Stanley Willliams)らによって、抵抗値を変えることができ、その抵抗値の変化に応じて状態を保存する(記憶する)ことができる記憶素子が開発された。これがカギとなって「メムコンピューティング」が技術的に可能になった。それは情報処理の効率性の点で現在のコンピュータのはるかに上を行く。記事によると、現在のコンピュータでは計算に何十年もかかるような計算をわずか数秒でこなせるほどの高速化を実現する。
 
 ここからが電力の話である。2012年の段階で、情報通信にかかる電力消費は世界の総電力の実に約15%を占め、最近はやりの「IoT」(Internet of Things)の影響もあって、2030年までには、家電製品向けの全世界の電力消費はアメリカと日本を合わせた総世帯電力消費量と並ぶほどになる。これを等式で表すなら
 
全世界で使われる家電製品の電力消費=日本とアメリカの総世帯電力消費の合計
 
である。金額にして年間2000億ドルである。「円」ではなく、ドルである。
 
このケースをまとめると、
 
物性研究+メムコンピューティングのアイディア(特に回路素子としてのメムリスタ)→省電力化(使う電力を減らす)
 
という流れで電力問題に貢献している。

www.nikkei-science.com

 

一方で今回読んだpen+のように、「下水処理」の過程で出るメタンガスを利用し、発電することで電力問題に貢献するという道もある。(電気を作って増やす)
 
 何が何に関係していて、何をすることが何の解決につながるのかという「関係の経路」はひとつではない。色々な経路がある。電力の問題を考えていると、その経路の数の多さにワクワクする。「点と点をつなぐ」という意味で「考える」ということの本質が凝縮されているような感じを覚える。
 
いい頭のトレーニングになった。