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すべては肉体労働だから?

週刊少年ジャンプで連載中のスポーツ漫画『ハイキュー!』のアニメを観ていて思ったことについて書こうと思います。

 0. バレーボール、身体、モーション

個人で競うスポーツ、チームで競うスポーツなど、「スポーツ」と一口に言っても色々ありますが、『ハイキュー!』は排球、つまりバレーボールを扱うので後者です。

日本バレーボール協会(JVA)のホームページ(参考:はじめてのバレーボール|バレーボールをする|JVA 日本バレーボール協会)によると、サーブ権を持たない方のチームがラリーを制した(得点した)場合、そのチームは時計回りにポジションをひとつずつ移動します(「ローテーション」)。

 

だから「サーブ権をもつ方」のチームからすれば、ポイントを失ってでも相手チームをローテーションさせて、相手の攻撃パターンをうまく制限するという戦略をとることを考えたりもするようです。

そして各プレーヤーは「そのためにはどう動くか(モーション)」を考えて身体を動かすことになります。

 

1.スポーツの戦略とその他の戦略―「モーション」に還元して考える

チームで闘うスポーツを例に考えましたが、個人で戦うスポーツにおいても、あらゆる戦略は最終的には「身体をどう動かすか(モーション)」に還元されるので、身体を鍛えること、トレーニング、練習が重要ということになる…という流れ(戦略→モーションの改善)がスポーツの場合はとてもわかりやすいのですが、ここでちょっと深堀りしてみたいと思ったのは『あらゆる戦略は最終的には身体をどう動かすかという所に還元される』というところで、これは何もスポーツに限らずあらゆる行動について言えることじゃないか、ということです。

 

最初に浮かんだ例は「効率的なコピーの方法」(※1)で、もちろんコピー機自体の技術進歩もある一方、それを人間がどう活かすかという意味でコピーの仕事を任された人間の動き方、たとえば

①どれだけ無駄なくボタンを押していくか

②ホッチキスで無駄なく資料を泊め続けられるか

③これらの個々の作業を一定のリズムで連続してこなし続けることができるか

なども重要になるでしょう。あらゆる戦略は、それが現実のものになるときには特定の物理的な現象として現れるものです。それはコピーの方法に限ったことではないでしょう。

a. 社員1人1人のテーブルに持っていくコーヒーの淹れ方、そのカップの最適な配り方・順番・経路(→力学、人間工学、組合せ論、待ち行列理論)

b. 会議における各参加者の発言のタイミングが参加者の間の情報伝達に及ぼす影響(→ネットワーク科学、エージェント・ベース・シミュレーション(ABS))

c. 外回りの営業においてどのような移動手段と経路を選択し、それぞれの営業先にどれくらいの時間をかけるのか(→「巡回セールスマン問題」、計算機科学、経済学)

などなど、こうした例は枚挙に暇がありません。そしてこれらもバレーにおける戦略が特定の身体的動作に最終的には対応しているのと同様に、最終的には何らかの特定の身体的動作に対応させることによって効率化することができるものです。

 

あらゆる戦略が実現されるとき、それらは各々特定の物理現象として生じる。

 

このことについて考えるとき、どれか一つの問題を考えるだけでもその助けとなる学問分野はひとつだけではなく、複数の分野・領域にわたっていることが見えてきます。

 

2.とりわけ「力学(mechanics)」について―裾野の広い仕事の条件

しかし今回アニメを観ていて特に焦点を当てて考えたくなったのは、力学(mechanics)の問題として個々の人間の行為を効率化したい場合、どのように考えていけばよいのだろうかということでした。

 

ある抽象的なアイデアが「仕事」に変換され、さらにそれが複数の具体的な作業に分割され、複数の人間にそれらが割り振られ、割り振られた個々人はその作業について「どうすればもっと速くこなせるようになるのか」と日々あれこれ考え、試行錯誤しているだろうと思います。

 

突然話が変わるようですが、僕は先日、受験した大学院に落ち、自分の将来について再考することになりました。その過程で「もし就職するとしたらどんな仕事をしたいか」ということを考えました。

 

そこで僕は近頃の自分の関心事を思い返し、「特定の人々だけでなく、なるべく広い範囲の人々の支えになるような仕事をしたい」(視点X)と考えました。この視点Xで考えた場合、例えばチョコレートを売る仕事と橋を作る仕事を比べると、後者の方がより多くの人々を相手にできます。

※念のために書いておくと、僕はチョコレートがとても好きで、チョコレートに関する仕事にも上の考えとはまた違う意味(仮に「視点Y」)で関心は持っています。チョコレートの製法、歴史、文化についてこれまで何冊かの本を読み、その二つくらい桁数が上の数の記事を読んできました。だからチョコレートに関する仕事を不当に貶めようなどという気はさらさらありません。I love chocolate now and forever!

 

チョコレートを売る仕事というのは他のチョコレート会社と競合し(競合性)、他のチョコレートを買う人々を排除しうる(排除性)という性質をもっています。個人が使えるお金には限りがあって、私たちは何かを買う場合、全種類のチョコレートではなく、どれか一つのチョコレート、或いはチョコレート以外の何かを買うことになるのが一般的だからです。

 

そこで「より多くの人々に、より直接的な形で恩恵をもたらしうる仕事は?より裾野の広い仕事は?」と考えると、それらは力学的なアプローチの可能な仕事ではないかと考えるようになりました。上述の「より効率的なコピーのしかた」で言えば、それは飲食業、銀行業、IT産業、広告業、農業、学術などなど多くの業界、分野、領域で働く人々に間接的に関わり、それでいて直接的に恩恵をもたらすことができます。

 

3.日常の中で体系化を待っているテーマたち

個々の会社の効率的な事務作業のこなし方に関する実践例は今日、ネットでどんどん公開されています。「書籍化」というとまだ一部の人々しかできませんが、ネットで文章を書くのであれば簡単です。しかしそれについて「体系的にまとめる」(学問分野として成立させる、或いは専門的に研究が蓄積される)というところはまだそれほどでもありません。

 

それはある程度のレベルの知識であればどんどん公開・共有されるようになったが、個々人を専門的な思考へと誘うまでには至っていないし、またそのための時間を取れるようになるにも至っていないということなのかもしれません。或いは現行の社会における様々な制度・慣習は少なくともまだそのような行動パターンを十分広く許容しうるようにはできていない、という様に言うこともできるかもしれません。

 

日常の中には体系化されてもおかしくないような事柄(※2)というのはまだまだ色々あると思いますが、ビジネスの世界の戦略が特定の身体的な動作に還元される場合にどのように還元されるべきかという問題について力学的に考えるということもまた、その一例でしょう。

 

そんなことを考える時間は、アニメ一話分、或いは1シーズン分の時間を大きく超えるでしょう。もう今週の「ハイキュー!」を見終えてからだいぶ時間が経ってしまいました。笑 

 

【脚注と参考リンク】

※1調べてみるとオフィスの事務に関してこんな興味深いHPを見つけました。

大量のコピーを取る時のワザ :オフィス事務の効率学 2)大量のコピーを取る時のワザ とは 大量のコピーを取る時のワザ

 

※2これについてはまた別途記事をいくつか書いていこうと思っていますが、近頃で一番気になっている例を挙げると「電車内の社会学(The Sociology in the Train)」とでもいうべきものです。世界規模でみて都市における人口は増加の一途をたどり続け、それに付随して電車を利用する人間の数も増え続け、さらにそれに付随して電車の平均利用時間も増え続けています。僕自身も一日の約2時間を電車の利用に費やしています。一日の中で使う時間を内容ごとにランク付けした場合、

1位 仕事

2位 睡眠

3位 移動時間(その重要な一部として「電車」)

4位 食事?

・・・

のようになるかと思いますが、1位、2位、そして4位に多くの研究時間が割かれていながら、電車の中で起きる現象、電車の中での人々の相互作用、電車内の社会学的位置づけ・意味などの研究はGoogle Scholorで検索してもほとんど論文が見当たりません。それは日本語の場合だけでなく、英語の場合も同様でした。ここにはまだほとんど学問的・専門的なメスが入っていないなと感じます。