タンパク質と脳はどちらが賢いか

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(画像はthe traveling salesman problem challenge for cheeseheads | Punk Rock Operations Researchより引用)

 「P≠NP問題」というのがある。

「NP問題」というのはNon-Polynomial(非多項式、つまりある多項式で表される時間以内では多くの解答の候補の中から正解を選び出すことは困難・不可能であるような問題のことだ。これはクラスNPと呼ばれる。たとえばかけ算の筆算はクラスPの問題だ。2桁どうしのかけ算では、計算する回数は10回以内に収まります。桁数を増やしていっても、計算する回数が発散することはない。

クラスNPの問題では、「数多くの場所を一回ずつ通る経路はどうすれば分かるか?」という「巡回セールスマン問題(TSP: Traveling Salesman Problem)」

*1が特に有名だが、実はNP問題というのは私たちの体の中にも存在している。

 

それはタンパク質の折りたたみ(フォールディング)の問題だ。DNAは多くのタンパク質が折りたたまれて二重らせんを形作っているわけだが、この「折りたたみ方」というのは、実際にはすさまじい数が考えられる。いってみれば10000万個のレゴブロックを組み合わせて何か一つの構造体を作るとき、難パターンの構造体が作れるかというのと基本的には同じで、膨大なパターンが考えられるにもかかわらず、実際にはそのうちの1通り(その個体にとって「設計図(遺伝子に暗号化されたプログラム)と同じである」という意味で「正解」となるような構造パターン)がちゃんと完成するようになっている。


まりたんぱく質の高分子は、日常的にNP問題を解いているということだ。私たちがそれを意識していようとそうでなかろうと、彼らは解き続けている。

しかし、私たちの「脳」で考えたのでは、それを解くことはできない。コンピュータでも解けない。

ではタンパク質であればNP問題という難しい問題が解けるのに、なぜ生物は進化の過程でそれが解けない「脳」などというものを生み出したのか。ダーウィンの進化論で考えれば、それはある意味不要なものとして、進化の過程ではむしろ淘汰される方が自然なのではないか。或いは人間ほど脳が発達していなくても、今日まで生き残り続けている生物はいくらでもいる。

このことについて、以前に大学の教授と話したことがあった。そのときに出たのは、「エネルギー効率の観点から見て、世の中に存在する問題の多くはクラスPの問題の方が多いとすると、脳で解いた方が少ないエネルギーで解けるからではないか」という捉え方だ。

実際に世の中にある問題はほとんどが1+1や1×1みたいな問題ばかりなのだから、それくらいのレベルだったら省エネで解ける脳の方が向いている、みたいなものだ。

果たしてこのタンパク質と脳の関係は、矛盾なのか、逆説なのか。


 この文章はもともとはアメーバブログ時代に書いたもので、今考えてみると先日書いた以下の記事の布石となるようなアイデアの記事だなあ。

人やコンピュータでなく、ネットワークに問題を解決させるということ - TOKYO/25/MALE

 

*1:巡回セールスマン問題について知りたいという方はこの本がおすすめ。

驚きの数学 巡回セールスマン問題

驚きの数学 巡回セールスマン問題