言葉やイメージを使わずに何かを達成するということ
(Why copywriters should love network science | Online Ventures Groupより転載)
近頃この辺のテーマについて考える時間が増えている。
先日の記事で紹介したハキリアリ、モジホコリ、ニューロンなど、それ自体はしごく単純なものが、とんでもないことをやってのけている例を、数多く目にすると、「では言葉を使って日常的にものを考え、考えた成果として学問の体系を作り上げ、それを広く伝えて共有し、問題を解決する」という営みをずっと続けてきている人間の、優位性とはなんなんだろうか、と思わされる。
「言葉によって考える」というとき、私たちはごく自然に、「みんなで決めるか(民主制)、1人の人に決めてもらうか(独裁制や君主制)」という風に分けたり、「自民党か民主党か」という風に分けたり、「政治家、経済学者、日銀、企業のトップは信用できるか、否か」という風に分けたりして考える。言葉どうしのつながり方は、例えば文化、例えば国家、例えば時代ごとに、既に出来上がったものがあって、それに基づいて現実も出来ている、と。辞書はそうして出来上がる。
言葉を使って政治を考えるということについては、今のところこの本以上に面白い本を自分は知らない。
社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学
- 作者: ジョナサン・ハイト,高橋洋
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
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その一方で、言語なしでも、例えばアリのように、ホルモンの分泌とその察知で、学問なしでも、例えば粘菌のように、ネットワークを作ることで、自分たちの問題が解決されていく。「彼らにとってはホルモンこそが言語などだ」というのであれば、「まあそういう言い方をすればそうなんじゃない?」というしかないが。
そして、そんな「他の生物たちから学ぶ」ということが最近では「バイオミミクリー(bio mimicry)」
という形で広まっている。
動画ならこちら。
ジャニン・ベニュス:行動するバイオミミクリー | Talk Video | TED.com
本ならこの辺だろうか。
自然をまねる、世界が変わる: バイオミミクリーが起こすイノベーション
- 作者: ジェイハーマン,Jay Harman,小坂恵理
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自然にまなぶ! ネイチャー・テクノロジー: 暮らしをかえる新素材・新技術 (Gakken Mook)
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なんだか人間の人間たるゆえんというか、「私たちはこのようなことができるから今日まで生き残ってきたし、これほど高度な文明を築くことができたのである」式の見解が根底から揺さぶられているような感じ。
たとえばジャレド・ダイアモンド『文明崩壊』『昨日までの世界』では、西欧世界の人間だけでなく、非西欧世界、例えばポリネシアの人々などに目を向けることで、人類が進むべき道や学ぶべき教訓が見えてくる、という見方をしている。もちろんこれはこれで意義のあることだし、必要なことでもあると思う。人間同士の間でさえ、人間は差別し合う現実があるのだから。
しかし、人間をいくつかのグループに分けて、「こっちのグループだけではなくて、あっちのグループからも学ぼう」ということとはまた別に、「人間だけからではなく、例えばカワセミや、ハチや、イルカたちからも学ぼう」ということも必要だ。人間は他の生物との間でも、差別し合う現実がある。
もちろん他の生物は、少なくとも人間が理解できるような形での言語をもたないけれども、彼らに言わせれば「いや、そんなの君らのいう『言語』や『学問』などがなくても僕らはやってのけていることだけど?」ということかもしれない。
言葉によらずに、学問によらずに、何かを達成するということは、人間にも可能なんだろうか。そしてそれはシステムとしてどんな風に体系化できるのだろう。